2023年3月ボートレース下関にてデビューからわずか4年にして初優勝を挙げた大阪支部の高憧四季選手。
的確なスタート勘、捲りにこだわらない自在性の高い攻めと女子ボートレース界の次世代のエースはそのルックスも相まってメディア、ファンから高い注目を集め始めていました。
しかし、そんな順風満帆にレーサー人生を過ごす高憧選手にも思わぬ試練が訪れました。
目次
生い立ちからプロデビューまで
生い立ち
1999年11月10日に大阪府にて誕生。父、母、兄がそれぞれ春、夏、冬に生まれ本人が秋に誕生したことから4人のバランスを整え家族の調和を保つ存在として「四季(しき)」という名前が名づけられたそう。
幼少期から長く続けていたサッカーの実力は確かなものがあり、大阪学芸高校の女子サッカー部に所属をすると3年生時にはストライカーともいえる背番号10番のエースナンバーをつけMFとして全国の舞台でも活躍しました。
高憧選手の運動神経の良さがこの時からすでに際立っていたと言えるでしょう。
プロデビュー
高校卒業後に父親から勧められたボートレーサーという職業に関心を持ち養成所試験を一発で合格。厳しい1年間の寮生活を乗り越え2019年5月にプロデビューを果たします。
近年は女子限定戦の増加により「男女が平等に戦う世界」というイメージが薄れつつあるとはいえデビューから1年、中には3年近くを初勝利まで要する女子選手もいる中、レーサーとしての第一歩を踏み始めてからわずか2か月後の2019年7月に混合戦にて早くも初勝利を挙げ素質の高さを証明。
さらにレース・仕事が面白いと感じるようになってからはその貪欲さも相まって成績・人気を上昇させると飛ぶ鳥を落とす勢いで2023年3月の下関ヴィーナスシリーズではデビュー後初の優勝を制覇。
同世代の中でもひと際頭角を現していたと言えます。
思わぬ出場停止処分
2023年4月 平和島ヴィーナスシリーズ
しかしそんな喜びも束の間。初優勝を成し遂げた翌4月の平和島ヴィーナスシリーズにおいて、不適格な航法により即刻帰郷という重い処分を受けてしまいました。
4月15日、初日の5Rにて1枠に入った高憧選手は2枠の山崎小葉音のフライングによる失格を転覆事故と勘違いしレース中に突然の減速。この際に存在しない事故艇を避けるためにターンマークを外してしまい後続艇に抜かれてしまうという事象が発生。
この判断の誤りに即座に気づいた高憧選手は、道中で抜き返しを決め最終的には先頭でゴールを果たしましたが、場内、そして動画配信、SNSが発達した現代においてこの不可解なレース内容は瞬く間に拡散。SNSの怖い風潮を現すかのように悪い意味で話題となってしまい、中には八百長を疑う声も飛び交いました。
選手、ボートレース平和島のイメージを損なう心無い声が飛び交った影響もあってか、公式ホームページにて事件の概要を声明文として発表するという異例の事態にも発展(なおこの際に5号艇でレースに同じく出場をしていた塩崎桐加選手も高憧選手と同様に事故艇と勘違いをして着順を落とし即日帰郷の処分が下っています)。
この結果、日本モーターボート競走会は5月17日(水)に褒賞懲戒審議会を開き、高憧選手に対して3カ月間の出場停止処分を下しました(※塩崎選手もこの際に同様の処分を受けています)。これにより出場が内定、予定されていたグレードレースへの出場が見合わせるのはもちろんのこと、出走回数不足による来期のA1級からの降格も決定的となってしまいました。
順風満帆に始まったレーサー人生において、初めて立ちはだかった大きな試練となります。
完全復活を遂げるリスタート
即刻帰郷から約3カ月半後の2023年8月22日、ボートレース蒲郡にて久しぶりにレースへと復帰を果たした高憧選手。ブランクや精神面の状態を心配する声もありましたがなんなくそれを跳ね返すように復帰1節目にしていきなりの優勝戦進出を果たしました(結果は3着)。
そしてその後も浜名湖、大村、びわこと立て続けに優勝戦へ乗り続け、2023年後期(2023年5月1日~2023年10月31日)は出走回数こそA級の最低出走回数を満たせなかったものの、勝率は7.16、64走中実に20走で1着を奪うまさしく無双状態を繰り広げ完全復活の姿を見せました。
この休みを経て以前は差しやまくり差しといった器用なレース運びを自身でも得意と語っていた高憧選手ですが、これを境に捲りで豪快に1着を奪うといった新しいレーススタイルが板に付き始め、再びA1級へ返り咲くのも時間の問題、そして来期は「最強B級女子レーサー」として活躍するのであろう、とこの時は誰もが思っていました。
・一か八かではなく着実にプラスにしたい人
・軍資金があまりない人
再び訪れたフライング
2023年12月 ヴィーナスシリーズ第17戦 尼崎プリンセスカップ
優勝戦進出はありながらも2度目の優勝がなかなか遠くなっていた高憧選手ですが、2023年12月にチャンスが到来します。ボートレース尼崎にて開催された「ヴィーナスシリーズ第17戦 尼崎プリンセスカップ」にて節間5勝を挙げた高憧選手は、優勝戦に2号艇で出場。自身が得意とする2コースの差し切りを決める絶好のチャンスが訪れたと言えます。
しかし結果は無情にもフライング。審議のランプが点滅し、痛哭なアナウンスが場内にながれました。
近年相次ぐビックレースでのフライングによる返還に対し快く思っていない日本モーターボート競走会が罰則を厳しくしたことは多くの人が周知している事実。しかし実は女子戦に限っては以前から「準優勝戦のフライングは休み消化後から3カ月間、優勝戦のフライングは休み消化後から6カ月間女子限定戦への出場停止」という罰則が設けられていました(G2以上のグレードレース場合は他のグレードレースと同様の罰則+上述の女子戦斡旋停止期間が採用)。
2024年前期(2023年11月1日~2024年4月30日)は95走を消化し、勝率5.67、22勝を挙げA2級復帰を果たすも、度々の事故によって目の当たりとなった「グレードレースへの出場不可」「女子戦への斡旋停止」といった事象により、2024年に入ってからは優勝戦への進出が出来ないまま終えることとなってしまいました。
すべては成長への道筋
2024年5月1日、自身のInstagramにて現状の気持ちを吐露。
「上手く行かなさすぎて気持ちが苦しいけどフライングをせず最低目標のA級に戻って今期を終えれた。上手く行かないレースが続くと楽しくなくなるし分からなくなるから一つの事を心がけて次から行ってきます!」と強い思いと同時に現状へのもどかしさや苦しさを書き綴った。
勝率7点台から5点台への低迷や、女子戦への斡旋が止まっている現状についてとあるインタビューでは「男子レーサー相手云々というよりも、自分のメンタル的な問題があるのかな。そもそも勝率7点台が出来過ぎです」と語っています。
しかし混合戦回りになったことでプラスに働いていることもあるよう。これまでレースで一緒になる事が無かった男性レーサーとも斡旋が重なるようになったことで顔を覚えてもらい、プロペラやエンジンの意見の交換を続け、レースに挑むにあたっての更なる攻め方やスタートの研究を繰り返しながら再び気持ちを高められる状況に戻りつつあるといいます。
様々な苦難も、きっと彼女の成長への道筋になっていることは間違いないでしょう。
これからの高憧四季に大きく期待
現在24歳。ボートレーサーとしての人生としてははまだはじまったばかりです。彼女の根底にある「レース、そして仕事をしている時間が好き」という気持ちがある限り、レーサーとしての成長力はまだまだ無限の可能性を秘めていると言ってでしょう。
一度は芽吹いた花。たとえ土の中にこもってしまったとしても、次に咲く大輪は名前のように四季に渡り華麗に強く咲き続け多くの人を魅了する・・・そんな選手として再び優勝した姿を見せてくれるに違いありません。
これからの高憧四季に注目です。