ボートレース界でトップに君臨し続ける男がそう言いながら流した涙が、苦悩から安堵へと変わったことを物語っていた。
目次
2020年の「好調」と「苦悩」
2020年、峰竜太はこれ以上にない最高のスタートを切った。
年間の優勝数は8勝がこれまでの最高だった峰竜太は、5月のG1尼崎センプルカップの優勝ですでにその8勝目を達成。そしてその2か月後の7月にはSGオーシャンカップも制し、令和の峰竜太はもう誰も止めることができない、と誰しもが思っていただろう。
しかし、年末近い終盤に入り、その勢いは突如減速する。
何があったわけではない。
10月の京極賞の優勝後から、突如勝負所で負けることが多くなった。
しかし、ボートレーサーであればよくあること。好不調の波というのは誰しもあるわけで、峰も決して例外ではない。むしろ、この時点ですでに優勝13回という偉業を成し遂げているわけで、ここから年の瀬まで不調になろうが、その年は成功と考えるのが普通だ。
しかし、峰は苦悩していた。
「僕もここまでか…」
あくなき勝ちへの飢え、これが峰竜太の強さの芯であると言っていい。
ツキは決して見放さない
12月のグランプリ間近、ボートレースファンの中には峰竜太の活躍を望んではいるものの、心のどこかでグランプリはどうだろうか、と半信半疑だった人も多くいたはずだ。少なくとも私がそうだった。
しかし、ツキは峰竜太という男を見放さなかった。
3日目、4日目のトライアル2nd、峰はどちらも1号艇を手にする。そしてそれと同時に、峰の勝負強さもこの1か月ほどが嘘だったかのように復活し、4日目にして優勝戦の1号艇をほぼ確にした。
あとは5日目のトライアルを無事故完走するのみ。前年のグランプリにおいて、トライアル2ndの第3日目で転覆した苦い経験のある峰は、ここで気を抜いてはいけないことを誰よりも知っている。そして峰は優勝戦の1号艇を手に入れた。
あとは逃げ切るだけ。
しかしグランプリはそう甘くない。峰はそれも十分心得ていた。
平和島の水面、のしかかるプレッシャー
平和島はインがあまり強くない。事実、平和島で行われた過去3回のグランプリはすべて、1枠が敗れているという不吉なデータもある。
もちろん峰もこれはわかっているわけで、のしかかるプレッシャーは相当なものだっただろう。
しかし、仕上がりには絶対の自信があった。だからこそ、
という峰らしい発言も出た。
そう。ジンクスなど峰にとっては関係ない。ただ自分のレースに徹するだけ。それだけだっただろう。
ここまで13回優勝してきたことも、2年前にグランプリを制したことも、頭からはすでに消えていたはずだ。
峰竜太の目には、今このグランプリの「勝利」しか見えていなかっただろう。
いざ SG 第35回グランプリ 優勝戦
優勝戦当日。
またもや試練は峰に襲い掛かる。
今節は3日目以降のトライアル戦はすべてイン逃げ決着となっていた良いムードだったにもかかわらず、この日はホーム向かい風が最大7mまで強くなった。結果、最終日にして突如センターからアウトから差しやまくりが決まる始末。SGの神はやはり手を抜いてこない。
そんな中迎えた優勝戦。向かい風はなんとか3m程度までおさまったものの、6枠には松井繁がいる。進入を考えればあまり助走距離をとることはできない。
案の定、進入は4対2。松井は4コースに入り、5カドは新田になった。
1 峰竜太(佐賀)
2 西山貴浩(福岡)
3 寺田祥(山口)
6 松井繁(大阪)
4 新田雄史(三重)
5 平本真之(愛知)
そうして始まった優勝戦。
峰は完璧と言えるスタートを切る。
コンマ01のトップスタートだ。
しかし2コースの西山もコンマ02スタート。さらに寺田も04、松井も03とスロー勢はギリギリまで突っ込んでいた。さすがはグランプリの優勝戦。峰は少しでも置きに行けばやられていたかもしれない。
後から聞けば、この時の峰は大時計も見ずに全速で行ったという。揃いに揃った負けてもおかしくない条件を覆せたのは、そういった強い気持ちがすべてだろう。
スタートからそんな攻防が繰り広げられ、迎えた第1マーク。
峰はしっかり1マークを先取りした。
一見、すんなり先頭に立ったように見えるかもしれない。が、これは峰竜太のモンキーターンあってのもの。2020年を席巻した男が、最後の大舞台でもまた、自分らしい走りでレースを締めくくった。
勝利後のインタビュー
SG 第35回グランプリ 補足
- 2020年の唯一のSG2V 🏆
- 獲得賞金は2億5068万2000円 🏆
- 賞金王 確定 🏆
- 最高勝率 確定 🏆
- 最多賞金タイトル確定 🏆
上記に加え、
- 最多勝利(最有力)
- 最優秀選手(濃厚)
史上初の4冠なるか?
なお、シリーズ戦を優勝したのは佐賀支部の深川真二。
すでに優勝を決め、後輩のレースを見守っていた深川は、グランプリを優勝で飾った後輩を笑顔と熱い抱擁で出迎えた。
これでグランプリ・シリーズ戦と共に佐賀支部が圧倒したことになる。
BOAT RACE振興会会長賞メダルが贈呈。
これで峰竜太はさらにゴールデンレーサー認定基準に近づいた。
※BOATRACE振興会会長賞メダルが授与されるレースは以下の通り(年間開催数)
・GRANDE5競走優勝戦出場メダル(5回)
・グランドチャンピオン、オーシャンカップ、チャレンジカップ優勝戦出場メダル(3回)
・マスターズチャンピオン優勝戦出場メダル(1回)
・周年記念競走優勝戦出場メダル(24回)
峰竜太 プロフィール