チルトの角度について

選手がここぞの一撃を決める際に行う「チルト調整」

良く聞かれる「チルト3度」を行うことで一体どのような意味であるのか?

メリット、デメリットの説明からチルトを駆使して戦う選手まで今回は詳しく紹介をしていきます。

①チルトとは

そもそもチルトとはボートに取り付けるモーターの角度を示すものであり「チルト」という部品が存在しているわけではありません。「チルトアジャスター」と呼ばれる部品でモーターの角度を調整することで選手が乗りやすい部分を求めていきます。

<プラスの場合>

ボートの積水面積が減り抵抗が無くなることでスピードを生み出す

<マイナスの場合>

積水面積が増えスピードは遅くなるがボートの位置が安定してターンが決まりやすくなる

一般的には-0.5度、0度でレースを行う選手が基本となっており、乗りやすさとターン毎のミスが許されないSG、G1といったグレードレースになるほどこの傾向が強くなる。

<1>全場のチルトの調整幅

ボートレース場においてチルトの設定角度には決まりがある。

全国24場のチルトの角度

桐生ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°
戸田ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°
江戸川ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°
平和島ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
多摩川ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
浜名湖ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 2.5°, 3°
蒲郡ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
常滑ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
三国ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
びわこヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 2.5°, 3°
住之江ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°
尼崎ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
鳴門ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
丸亀ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
児島ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
宮島ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
徳山ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°
下関ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
若松ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 2.5°, 3°
芦屋ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
福岡ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°
唐津ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°, 2°, 3°
大村ヤマト
331型
-0.5°, 0°, 0.5°, 1°, 1.5°

参照資料 https://www.boatrace.jp/owsp/sp/site/pr_info/2015/08/97/

最もチルトの幅の制限が厳しいボートレース戸田は3段階。最も多いボートレース浜名湖、ボートレースびわこ、ボートレース若松の3場では8段階の調整が可能となっている。

2022年まで8段階調整はボートレース浜名湖に限られていたが2023年にボートレースびわこ、2024年にボートレース若松でそれぞれ新規採用されている。

一部例外はあるが狭い水面になるほどチルトの調整幅が狭くなり広い水面ほど調整幅が広くなる

ボートレース浜名湖チルト角度についての逸話

2019年ボートレース浜名湖「G2第1回ボートレース甲子園」前に行われたパチスロライターのういちさんと菊地孝平、茅原悠紀の3者が対談にてボートレース浜名湖において当時唯一のチルト8段階の話題が浮上。

両者はチルトの角度が変わることを服に例え「0.5度から0度はジャケットを一枚羽織るくらいなのに0.5度はダウン、1度はエスキーモ、3度はもう宇宙服」とその難しさを語っている。

なお茅原は「4.5.6号艇で優勝戦に出たら2.5度で乗る」と宣言すると実際にこの大会で6号艇で優勝戦に進出しチルト3度調整で挑んでいる。

その後に「2.5度じゃ回転が足りなかった。チルト跳ねればウィーンって言えば言うほど伸びると聞いてたのに鳴らなかった。これじゃだめだとチルト3度にした」と振り返っている。

②メリットとデメリット

ここからはチルト調整のメリットとデメリットを見ていきます。

<1>メリット

  • スタート直後に最大の出力を生み出して外側のコースからでも1着を奪うことが出来る
  • 乗り慣れている選手であれば角度をプラスにしても操縦次第で道中も戦える
  • 通常の角度だと伸びきれないモーターに変化を生み出せる

<2>デメリット

  • スタートラインに向けて普段のレースと異なる伸び方をするためフライングを切ってしまう危険性から取り扱いが難しい
  • 乗りやすさを失うことでターンマークを綺麗に回れなくなる(プロペラの調整も相まって着順を落としてしまう)
  • チルトを跳ねるほどに出足が悪くなり、ピット離れで遅れを取りやすくなる。
    選手によっては「0.5度からピット離れは諦める」とも話している。
  • チルトを跳ねた状態に適したプロペラ調整の技術が必要。

補足情報

  • 河川を利用し強風、高波かつ3対3の枠番通りのレースが基本的なボートレース江戸川ではそのような状況に押し負けないようにするためチルトを跳ねてレースに挑むことが多い。外枠の選手はもちろん1号艇の選手がチルト1度〜2度に設定してレースをすることも出来る(推奨される)
  • 展示航走ではそれより内側の艇の選手でもノビが良いことから捲られるのを恐れたり早仕掛けを利用した攻めに転じようとあえて本番ではコースを譲ることがある(これをマークと呼ぶ)
    しかしいざ本番でコースが変わってしまうと助走距離やスタートの見え方が変わってしまうことでチルトを跳ねた選手の仕掛けが遅れてしまいマークする側も無抵抗に終わることも・・・。
  • プロペラを叩く際に使用するゲージの型はもちろん極端な変形を加えることからプロペラを破損させるリスクがある(1年間に4枚割ると1か月間の出場停止処分が下る)
    プロペラは各ボートレース場ごとでの共有物となるため次回以降に引き継ぐ選手に迷惑をかける観点から控える選手も多く一度プロペラの形が出来上がってしまうと整備が上手い選手でも直すのは難しくなる。

このようにチルトを跳ねること自体はまさに一か八かの作戦でありメリットよりもデメリットばかりが次々と挙げられる戦法であることからも多くの選手が好まない理由が見えてくる。

③チルトを跳ねる選手10選

ではここからはそんな多くの選手に愛されない一か八かの作戦でレースをする選手たちを見て行きます。

なお今回紹介する選手は「勝負駆け」の奇襲ではなく「日常的に行っている」ことが対象となりますので「あの選手はあの場面でやっていた」というのは除くことを先にご了承ください。

<1>阿波 勝哉

登録番号支部
385779東京

弧高のアウト屋、ミスターチルト3度など数々の伝説と愛称を持つ選手。どのレースでも外側(6コース)から戦う「アウト屋」の地位を確立させた。

プロペラ、モーターの仕様やルール変更の影響により近年は成績こそパッとしないものの現在でもここぞの場面ではチルトを跳ね上げ大外6コースからの強烈な捲りでファンを沸かせている。

ボートレース平和島で発売されている名物商品の1つ「ペラ丼」の前身である「チルト3丼」、「チルトサンド」は阿波をモデルに作られ現在の姿に繋がっている。

<2>菅章哉

登録番号支部
4571105徳島

 

等級最上位のA1級の常連で「令和のチルト3度の申し子」としての地位を確立させた選手。

完全なアウトというわけではなく枠番によってチルト角度を使い分けているのだが、強烈な伸びと早仕掛けを恐れたり利用しようとマークに回る選手もよく現れるほどその伸びは選手間でも恐れられる存在。

2024年のSGボートレースオールスターでは初日のオープニングセレモニーにて投票で選出してくれた人、会場に駆け付けてくれた人たちの期待に応えるべく急遽初日からチルト3度で戦うことを宣言。

3日目に6コースから捲りを決めて勝利をするもそれまでの不甲斐ない内容からレース後のインタビューでは涙を流し悔しさを露わにした。

以前は6コースから勝つことを「裸で戦争に行くようなもの」と考えから前付けを行うも後味が悪いと言う理由から断念。その後に師匠である近藤稔也に伸び型のゲージを渡され現在のレーススタイルのきっかけを掴んだ。

<3>仲道大輔

登録番号支部
5166127愛知

養成所時代からノビを追い求めたレースを行っていた選手。

愛知支部といえば池田浩二を参考に後輩選手達が乗りやすさ、クリーンなレース運び、差し、捲り差しを好む中で異質な存在となっている(ただしそんな池田浩二に誰よりもかわいがられているのが仲道である)

上述で紹介した菅に自らSNSのDMで連絡を取り伸びの極意を教えてほしいと直談判を行い「いつでもおいで」と言われると翌日には菅の自宅がある徳島県へ出向き驚かれる。

2022年、仲道が地元のボートレース蒲郡でチルト3度でレースを行ったことでこの後紹介する選手、そして仲道自体の運命を大きく変えることになった。

<4>堀之内紀代子

登録番号支部
401184岡山

元々捲り主体のレースでA級の常連だった選手。

2022年9月に前節で仲道大輔が使用していたチルト3度仕様のモーターとプロペラを抽選で引き当てると「自分向きの調整に戻すのは時間的に難しかったことと、一度やってみたいなという気持ちが心の片隅にあった」という理由からそのままの形でレースに挑み活躍。

その後は「やらない後悔より、やってみた後悔を選ぼう」という読んでいた本の言葉に後押しされ道を突き進み「チルト3度の女」という愛称で知られるようになった。

自身のレーススタイルの転向のきっかけを作ってくれた仲道とは後輩選手を通じ交流関係を結び当初はプロペラの情報交換を行うようになりその後は仲道が師匠という形で師弟関係を結んでいる。

<5>下出卓矢

登録番号支部
441599石川

2019年に平和島でG1を制したこともある福井支部が誇る捲り屋の選手。

プロペラ、エンジン、気温、水面状態などによって最適なチルトの角度を調整する姿はまさしく「チルトの魔術師」という愛称がピッタリと似合っており2021年にボートレース江戸川で行わた「江戸川634杯 モーターボート大賞」の5日目の準優勝戦では1号艇にも関わらずチルト2度のセッティングで逃げ切りに成功をしている(翌日の優勝戦は1号艇でチルト1度にて優勝)

現在ほどチルトを利用したレーススタイルの選手が少なった頃に「レースを面白くするためにも、このスタイルでいきたい」という理由から始めて現在に至っている。

同期の茅原いわく「下出卓也はチルトがマイナスでもモーターが鳴く」と言うほどプロペラに独自の調整を加えている。

※チルトをプラスにするほど通常はモーターが鳴く

<6>香川颯太

登録番号支部
5155125滋賀

2022年のPG1レディースチャンピオン優勝選手である香川素子を母に持つ2世レーサー。

これまで紹介してきた選手ほど極端なチルト調整は行わないがチルトを跳ねてレースがしやすいボートレース江戸川といった水面を得意とする。

2022年の初優勝時には3コースからチルト2度での捲りを決めている。

<7>杉山勝匡

登録番号支部
4552104佐賀

元選手会会長である上瀧和則イズムを引き継ぐインファイター、峰竜太を筆頭にターン技術で勝負をする選手が多い佐賀支部において伸び型ツートップの1人。

全てのレースを一か八かで戦うスタイルゆえに勝率こそ伸びないがハマったときの一撃には定評があるのと知名度がそこまで高くない選手のため決まれば高配当を演出してくれる穴党にとっては有難いタイプの選手でもある。

<8>酒見峻介

登録番号支部
4652108佐賀

杉山と同じ佐賀支部で伸び型ツートップのもう1人の選手。

「いつでもどこでもインでもアウトでも、隙あらばチルトを跳ねて自力で勝負」という攻撃的なスタンスの持ち主でチルトをプラスにセッティングしてのセンターコースからの仕掛けを特に得意としている。

<9>和田兼輔

登録番号支部
4446100兵庫

プロペラをノビ型に寄せてチルトを駆使しながら捲りを決める選手。

ある節間にて伸びに寄せれるだけ寄せてプロペラを叩き最終日にはチルト3度を決行。その状態で次節のSGで引き継いだ西山貴浩は調整に苦戦を強いられ「プロペラのクセがすげぇ。直らんのんですよ。和田(兼輔)覚えとけ、コノヤロー。クセがすごい。取れんのよ、大庭元明ぐらいクセがある。すごい、クセしかない、大グセじゃ」、「エンジンはしっかりしてるんで。西山グセは付かない、和田が強えーの。西山グセ付けたら和田が出てくるの「こんにちはー」言うて」と勝利者インタビューで愚痴をこぼした。

<10>重富伸也

登録番号支部
421391長崎

長らくB級所属の選手だが実はチルトを跳ねて戦う選手。

弟子である真鳥章太がの妻の西岡成美から貰ったというプロペラゲージを見た際に「これまでもどうせ勝率4点ちょっとの選手だったしやってみよう」と決意をしたことであった。

なお西岡成美の師匠こそ上記で紹介した菅章哉で思わぬきっかけからレーサーとしてのスタイルが変わっていった。

④まとめ

大半の選手が枠なり、相手なりに戦う現在のボートレース界において異質な存在となっているチルトを駆使して戦う選手達。

しかしその根底には「ボートレース界を盛り上げたい」という気持ちが存在しており、舟券を買っている我々ボートレースファンを常に盛り上げてくれる重要な存在となっている。

これからも自らのレーススタイルを突き進み熱いレースを繰り広げてくれることを期待しています。


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